2007年3月3日 大山北尾根〜鍋嵐(単独)
道無き尾根を地図片手に





本厚木7.35−08.13ヤビツ峠08.19〜08.47春岳山〜09.45展望地09.28〜09.42ネクタイ尾根〜09.57西沢ノ頭〜10.32札掛分岐(913m)10.35〜11.16一ノ沢峠11.21〜11.44黒岩11.57〜12.46(710m)〜13.15鍋嵐(817m)13.21〜13.45(719m)〜13.54(740m)〜14.09物見峠〜14.55煤ヶ谷15.05−15.48本厚木




 昨年末から仕事が思うようにゆかず鬱々としている。1月に精神的な深みにはまりそうになったとき、山の空気を吸って何とか這い上がってきたが、だからといってそれだけでその後の実際の仕事が順調に進んでくれるわけではない。調整しつつ、なだめつつ、謝りつつ、不本意ながら怒鳴りつつ、何とか軌道に乗せようとはするのだが、絶対的な時間の壁が立ちはだかっている。

 自分一人でやる仕事なら何とでも出来ようが、他人様にお願いしてやっていただくというのはなかなかどうして難しい。思っていることの全てが伝わるわけでもなく、かといってそれぞれの相手の言うがままに事を進めれば結局全てがめちゃくちゃになってしまう。いっそのこと全部投げ出してしまったらどんなに楽かと思うときもあるが、今まで私を支えてくれた人たちと社会への責任からは決して逃れることは出来ない。沈みきった気持ちを持ち上げるために、お願いして一日お休みを頂き再び山へ向かった。



 今回は一人で大山北尾根から鍋嵐に登り、物見峠から煤ヶ谷におりる。本厚木駅から始発のヤビツ峠行バスに乗る。定刻の7時30分を5分ほど過ぎて発車。数人が立っている程度。途中から霧の中。

 ヤビツ峠到着後、準備運動をして出発。イタツミ尾根は、霧に濡れた木々から落ちた雫で足元がぐちゃぐちゃだ。途中22番の杭から左に逸れ春岳山に寄り道する。静かなピーク。何もないけど何故か落ち着く。来た道を戻り再びイタツミ尾根を登る。大山神社奧宮裏の展望地にたどりついたが、霧で何も見えない。一息ついた後、いよいよ北尾根にはいる。


オニシバリの花


この標識の裏から
春岳山に向かう


春岳山は静かだった



展望地の先は真っ白


 下りはじめの急坂は、2月11日に来たときには凍り付いて滑りやすかったが、今回は濡れて緩み滑りやすい。草地を選んで歩こうとするが地面ごと滑り出す。怖がれば怖がるほど腰が引けて滑るのは判ってはいるのだが。何とか急坂をクリアして広くなった尾根を進んでゆく。ネクタイ尾根を過ぎれば未経験のゾーン。次第に痩せてくる尾根を、足元を確認し、靴底の泥を落として滑らないよう気をつけながら進む。しかし、歩き込まれているためか道がしっかりついている部分も多く、お気楽モード。


静かな北尾根

 ネクタイ尾根を過ぎて5分くらい進んだところで、道なりに北の尾根を下ろうとするが、何だかヘン。周りを見回すと左側にも尾根があるようだ。しかし下ろうと思った尾根より急勾配。でもよく見ると、そちらの尾根の方に赤テープ。慌てて左側に方向転換。

 更に尾根は痩せてきて、手も使いながら西沢ノ頭に到着。下るとすぐに平場に出る。尾根が二又に分かれる。右側の尾根を下ろうとするが左側のゆったりした尾根に赤テープを発見。あわてて方向転換し鹿柵沿いに下り始める。だけどまた何だかヘン。50m程下ったところでザックから地図とコンパスを取り出し現在位置を照合する。どうもこの尾根は西に向かっている。と言うことはさっきの右側の尾根が正解。登り返して正しいルートへ戻る。


尾根が痩せてくる


西沢ノ頭に到着


西沢ノ頭


 これから先は、まじめにコンパスと地図を確認しながら進む。尾根が大きく西に折れる部分は迷うことなく進む。程なく送電線と鉄塔が見えてくる。この頃から霧が切れてきて視界が開け始める。鉄塔の先が913mポイント。ピークには「御料局境界点」と刻まれた標石があった。ここから札掛方面と一ノ沢方面に道が分かれる。


鉄塔から振り返る


「御料局境界点」の文字

 一ノ沢は北方向。急な下りだが、地面は乾燥しており滑ることはない。昭文社の地図には『ヤセ尾根』と書いてあるが、さっきの西沢ノ頭近辺の方がよっぽど怖い。

 大きなモミの木に挨拶しながら進んで行く。ここはひたすら北に向かうので迷いようがない。一ノ沢峠で休憩し、黒岩に向かう。舗装した林道に出るとすぐ向かいに黒岩への立派な案内標識。


林道の標識

 標識の左側から下ってゆくが、かなり荒れている。斜面に微かに踏み跡が残っているような場所もある。誰かが踏み外して滑落したような跡もあった。山側に寄りかかりすぎると滑りやすくなるので、思い切って身体を真っ直ぐ立てて歩くが結構怖い。とりあえず誰かを案内して来ようとは思わない場所だ。

 ようやく川岸まで降りるが、橋が流されていて渡る場所がない。川幅はたいしてないが深さは膝より上までありそうだ。困ったぞと廻りを見渡す。川下側は崖になっている上に堰堤があるので渡れそうにない。川上側に浅そうな所があるので行こうと思うが2m程の崖になっている。とりあえず高巻いてみる。


黒岩への道は
かなり荒れている

 5mほど川上に行くとその先は更に崖が高くなってゆく。それ以上遡るのはあきらめ2mの崖から下の流れを覗く。落ち葉が溜まっているところもあるので何とか深みにはまらずに済みそうだ。問題はどうやって下りるかだ。飛び降りれば玉石で足を挫く可能性がある。幸い崖から枝を伸ばしている樹が二本あったので、猿のように足を掛け、跨ぎ、ぶら下がり、懸垂して何とか玉石の上に下りた。幸い足元はしっかりしていたので、水中のしっかりしていそうな岩を探しながら何とか徒渉完了。


橋が流されている


左側の木にぶら下がって下りた

 とりあえず、私は渡ることが出来たが、唐沢キャンプ場から歩いてきた人は、木橋を修繕しない限り徒渉は無理だろうなあ。足元の悪い高さ2mのオーバーハングを登るのは私だったら絶対無理。林道を歩いて物見峠に行こうとしていた人はあきらめて戻るか、無理して廃道になっている遊歩道を歩いて行くしかないだろう。物見峠・黒岩間を閉鎖するのは理解するが、併せて黒岩・林道間も閉鎖すべきだったのではないか。

 誰もいない河原で寂しく昼食とする。これから登る予定の斜面を眺め、「高いなあ」と独り言。徒渉でドキドキして根性が無くなりかけたので、このまま鍋嵐を目指すか廃道になっている物見峠への路を行くか思案するが、やっぱり予定通り鍋嵐に向かうことにする。

 河原から登山道まで登り、登り口を探すがあるわけがない。どっこらしょと斜面に取り付く。足が滑るが、草を掴みよじ登る。杉の植林地だ。急勾配を登って行く。整備された路はないが、何となく人が歩けそうな場所というのは見えてくるものだ。ただ、楽をして廻り込みすぎると尾根の頂点からどんどん離れてしまうので、時折周囲を確認しながら小刻みに方向転換する。

 丹沢の山というのは、本来は林業の山で、植林されている部分が殆どだ。苗を植え、鹿対策を施し、枝打ちをし、一生懸命育てている。必要と思われる場所には鹿柵を設ける。こんな急勾配の斜面での作業は大変な重労働であろう。そんな中、杉林の中に大きなモミの木が切り倒されず育っているのを見ると嬉しくなってきた。鹿柵を何度も潜って進む。柵の中にも鹿の糞があちこち見られると思っていたら、潜り戸が開いている場所もあった。潜るたびに閉めてゆくが、そのうち柵が破れているのも目立ってくる。金網の下が50cmほど、丸く広げられ、そこにはしっかりと獣道が出来ている。


今や役に立たなくなった標識


株元を食害にあったモミ
白い樹液を流している


急勾配の植林地


 ひたすら急斜面を登り710mピークにたどり着くとなだらかな尾根が少しの間続く。地図の等高線を見て、後はたいしたこと無いと思ったのは大きな間違い。
目の前のピークにたどり着く前に等高線間隔の狭い深く急な鞍部。地図では、そこをクリアすればなだらかな尾根のように読めたが、意外としっかりしたピーク。もう一度深い鞍部を手足を動員して通過しようやく鍋嵐に到着。頂上から丹沢三峰を望むことが出来た。


鍋嵐山頂


鍋嵐から丹沢三峰を望む

 休憩後、物見峠に向かって東に下りる。ここからは、ポピュラーになっている行程のようで踏み跡もしっかりしているが、それなりに険しい急な尾根を下りる。途中のヤセ尾根ではモミの大木が倒れている部分もあり、そっと脇を通過する。途中にある719mと740mのピークはまじめに頂上を通過したがどちらも南側に巻き道があるようだ。

 740mピークの先にもう一つ小さいピークがあり、その右側(南側)に巻き道がある。その道を通ろうとしたのだが、取付部分が大きく崩れ、下に見える足掛かりはザレてとても小さい。その下はガラガラの急な崖。手がかりは、小さく露出した直径10mmほどの根っこだけ。一歩踏み出そうとしたが、根はぐらぐらしているし一歩目の足が下の段差まで届かない。ここで足を滑らしたら崖を滑落、と言うことであきらめて再びピークを登って反対側に出た。出たところは、物見峠から辺室山に向かう登山道が東にクランクする地点だった。そこに祭られている祠にこれまでの無事を感謝して物見峠に向かう。


鍋嵐からの急な下り



倒れてしまったヤセ尾根のモミの木


ヤセ尾根が続く



合流地点の道標


登山道合流地点の祠

 物見峠に着いた時点で14時を少し廻っていた。煤ヶ谷のバス停の時刻表は毎時04分発。逃せば一時間待ち。ということで、ダッシュ下山。とはいうものの、峠からしばらくは足元の不安定な崩壊地。ここで滑落しては元も子もないのでしっかり確実に歩く。路が安定してからは位置エネルギーを運動エネルギーに変換してとっとこ下りる。山道を走って下りれるようになったのは少しは進歩した証拠か。煤ヶ谷のバス停に到着したのはバス到着時刻の10分前だった。結局、大山から煤ヶ谷に下りるまで誰にも会うことはなかった。


物見峠から下るとガレた道


里にはタチツボスミレ


オオイヌノフグリも満開




 今回、念願の大山北尾根を無事歩き通すことが出来た。また、地図を読み地形を確認しながら山の中を歩くことが出来て、とても満足している。しかし、登るときはよいが、下りは気をつけなければならないと反省した。

 今日養った鋭気を持ち帰り、明日からとりあえずもう少し頑張ってみることにしよう。