2012年11月3日〜4日
分水嶺38 甲子峠〜鎌房山
15人の大部隊で新雪の藪を踏破






いつものようにチーフリーダーの山行記を転用させていただきます。

では!



 
1班:MrT(CL)、HoR、YsN、NzW
2班:TuB(SL)、HsK、SzK、YnK
3班:TkZ(SL)、AzW、YbT、AmS
4班:KsM(SL)、SmZ、YmT

 大白森山と鎌房山の2kmほどの藪。入門コースとして企画したところ、初参加の人も含め15名もの大部隊での山行となった。予想外の雪と格闘することになったが、これぞ分水嶺の魅力。充実した二日間を過ごした。

2012年11月4日 土曜日 曇

 今回のコースは、今年3月に大峠から三本槍をへて下ってきた甲子温泉と、2月に鳳坂峠から羽鳥湖スキー場を経て歩いた鎌房山を結ぶルートだ。鳳坂峠から歩いたときには甲子温泉まで歩きとおす計画だったのだが、深雪のラッセルでペースが上がらず、鎌房山で力尽き引き返してしまった。鎌房山と大白森山の間は、積雪期には比較的歩かれているが、無雪期に歩かれた記録はほとんどない。唯一の記録が、日本山岳会の100周年記念山行の一環として9月に歩かれた記録で、彼らはこの区間に5時間をかけている。我々の実力からすれば、そんなに時間がかかることはなかろうと、たかをくくって立てた計画は、初日に大白森山の山頂にテントを張り、鎌房山まで往復した後、小白森山を経て二岐温泉に降りるというものだった。しかし、参加者が15名と多くなったので、計画を変更。テントは十分なスペースが確保できる甲子峠に張り、翌日、大白森山経由で鎌房山に登った後、林道経由で甲子峠に戻り、そのまま下山する計画とした。
 前日、甲子温泉の大黒屋に電話をすると、朝方に雪が降って甲子山は雪化粧とのこと。個人装備に軽アイゼンを加える旨、メンバーに連絡をする。
 6:40 やまびこ203号に乗る。15人ともなると全員が乗ったかどうかを確かめるのも大変だが、東京駅から乗る乗客はそれほど多くなく、自由席に一塊になって乗ることが出来た。新白河の駅で新幹線を降り、2台のジャンボタクシーに分乗して甲子温泉に向かう。甲子トンネルの入り口の広場でタクシーを降りる。道路には雪はないが、山肌は白い。ストレッチをして、今日の行程を説明。自己紹介をしてから出発する。
甲子温泉−甲子山分岐 9:00−10:27 距離 2300m 平均速度 1600m/h 登攀速度 400m/h
 猿ヶ鼻までの登りは、3月に下るときに苦労したところだ。雪の急斜面を後ろ向きになって慎重に降りた。登るのも大変だろうと覚悟していたのだが、今回は夏道が出ている。九十九折になった道は良く整備されていて、まったく不安なく歩ける。登るにつれて雪が増えてくるが、凍ってはいない。猿ヶ鼻を過ぎると傾斜はなだらかになる。積雪は5−10cmぐらい。地形図で甲子山に登る道から、甲子峠に向かう道が分岐する点の手前で休憩する。
ストレッチ 九十九折
甲子トンネルの手前の広場で出発前のブリーフィング

猿ヶ鼻まで九十九折の道を登る

甲子山分岐−甲子峠 10:31−11:32 距離 1840m 平均速度 1800m/h
 地形図で道が分岐するポイントを過ぎても、なかなか分岐が現れない。しっかりと標識があるから、見落とすはずはないのだがと不安になったころ、ようやく分岐が現れた。甲子山の東側をトラバースする道は、地形図の表示よりも標高で50m程高い場所にあった。雪はあるものの、それほど傾斜はきつくなく不安はないなと思っていたら、前の方でザザッと音がする。熊でも出たかと思ったら、HoRちゃんが笹原から這い上がってきた。どうやら笹で足を滑らして、数m滑り落ちたらしい。初日のHoRちゃんは、なにか話題を提供してくれる。稜線に出ると風が強くなる。北海道の北に低気圧があり西高東低の気圧配置で西風が吹いている。1445mのピークでは、なにかに掴まらないと歩いていられない。軽量級同士が掴みあって耐風姿勢をとる。効果は疑問だが、なんとか無事に通過。樹林帯下ると甲子峠に着いた。甲子峠も、吹きさらしてとてもテントが晴れる状態ではない。車止めを越えて東へ回り込んだところにテントを張ることにした。
甲子山トラバース テント設営
甲子山の東側をトラバース

林道の幅一杯に4つのテントを張る

甲子峠−鎌房山南西鞍部下 12:02−12:42 距離 2020m 平均速度 3030m/h
 テントを張り終えたところで、水汲みをかねて、明日、稜線から林道への降りるポイントの下見に行く。10分ほど歩いたところで、予定通り水場を見つける。音を立てて水が出ており、水量は問題ない。水汲みは帰りにすることにして先に進む。しばらくすると、前方からバイクの音が聞こえてきた。こんなところを車が走ってくるはず無いと思い込んでいたのだが、オフロードバイクなら通り抜けができるようだ。我々は林道の幅一杯にテントを張ってしまったので、そのままではバイクが通れない。KsMとYbTがバイクと一緒にテント場まで戻って、テントのステーを外して、バイクに通ってもらうことにする。残りのメンバーで偵察を進める。左側の斜面は林道を作るときに削ったようで崖になっており降りるのは難しそうだ。それでも、途中2箇所、エスケープルートとして使えそうな場所を見つける。明日の下降ポイントと目星をつけていた鎌房山南西鞍部まで行く。沢筋の少し北側の笹原を降りれば問題なく降りれそうだ。一安心して林道を戻る。
鎌房山南西鞍部下−水場 12:47−13:12 距離 1480m 平均速度 3550m/h
水場
バケツリレーで水を汲む 蓋が足りない

 林道から5mほど入った岩場から水が出ている。一列に並んでバケツリレー方式で水汲みをする。ところが、組み終わってみるとプラティパスの蓋がひとつ足りない。だれかばポケットにでも入れたかと持って聞きまわるが見つからない。しかたなく、蓋を開けたままぶら下げて持ち帰る。
水場−甲子峠 13:24−13:31 距離 550m 平均速度 4700m/h
 テンバに戻り、ストレッチをする。本当は、外で皆で語り合いたかったが寒いのでテントの中に籠もる。今回は、分水嶺のトップシェフ、TuBとTkZが食事を担当してくれた。テーマは、ヘルシー&デリシャス。先ずは、黒ゴマいわしを肴に団欒。YsNが、期待の新人NzWにテント生活のノウハウを伝授する。定番となった「いぶりがっこ」をつまみながらご飯炊き。メインディッシュは豆乳鍋。野菜を煮込んだ後、鶏肉団子を入れる。寒い日のテントは鍋がいい。心も体も温まる。鶏肉団子に練りこまれた軟骨の歯ざわりがなんとも言えずおいしい。NzWが炊いたご飯も、わずかにおこげが出来て、いい炊き上がりだ。広いテントで体を伸ばして寝る。


2012年11月4日 日曜日 晴

 5時過ぎに起床。昨日からの西風が収まらない。スマホで3時の天気図をチェックすると、高気圧の動きが遅く、昨日とほとんど気圧配置が変わっていない。今日も一日、西風が強そうだ。今回は朝食も気合が入っている。白石うーめんに、なす、油下、麩を入れる。うーめんは腰があっておいしい。油を使わない製法で作られているとのことでヘルシーでもある。我々のテントは、白だし仕立てのTuBバージョンでいただく。TkZバージョンは、昆布だしだったそうだ。食事をしていたら明るくなってきた。分水嶺では、日の出30分前に出発するのを定例としている。朝食はヘッドライトで食べ、薄暗い中でテントを撤収し、ストレッチが終わるころには、ヘッドライト無しでもルートファインディングが出来るようになる。今回は、5:40出発とすべきであったが、昨日のミーティングで、僕が日の出の時間を勘違いして6時半の出発と連絡してしまったのだ。昨日の段階で、おかしいと思っていた人はいたみたいだけど、、今回の反省点。
甲子峠−大白森山 6:40−7:30 距離 940m 平均速度 1120m/h 登攀速度 270m/h
 朝日を浴びてスタート。大白森山までは登山道がある。上空はかなり強い風が吹いているが、霧氷がビッシリトついた樹林が風をブロックしてくれている。しばらく尾根を歩いた後、少し左にトラバースして、小さな谷筋に入る。雪のついた岩場を登っていく。頂上に着いたところで休憩。風が強いので、笹の脇にしゃがんで休む。展望が良い場所のはずだが、ガスに覆われていて何も見えない。
朝日を浴びてストレッチ 谷筋を登り
朝日を浴びてストレッチ

大白森山まで谷筋を登る

大白森山−1630m肩 7:39−8:26 距離 260m 平均速度 340m/h
 ここで登山道はなくなり、いよいよ藪に突入。トップは藪クイーンことYsN。背丈ほどの針葉樹、しゃくなげ、笹の混生した藪。枝についた雪はがっしりとこびり付いていて、払っても行方を阻む。ところどころにある笹にルートを求めるがなかなか進まない。ここでYsN、新戦法を編み出した。名づけてハイハイ潜り。針葉樹の枝の下の50cmほどの隙間を、赤ちゃんのハイハイのように潜っていく。10cmほど積もった雪がマットの役割をしてくれて膝も痛くない。今日は、テントをデポしてきたのでザックも小さく引っかからない。いい条件が揃っていた。小動物が獣道を抜ける気分を味わう。立ったり這い蹲ったりしながら進む。HsK、SzKとトップを交替して、大白森山の頂上稜線の藪を抜ける。
大白森山 しゃがめば
展望の良いはずの大白森山山頂

しゃがめば道が開ける

藪漕ぎ 余裕
潜ったり、掻き分けたり、思い思いに

余裕の表情

1630m肩−1530m 8:26−8;52 距離 280m 平均速度 640m/h 下降速度 240m/h
下り
1630m肩からは視界が開けた

 ここからの下りが、最もルートファインディん具が難しいところだ。左右に分かれていく大きな尾根の間の僅かな尾根筋を辿って降りていかなくてはいけない。日本山岳会の記録を見ても、何度も登り返しをして時間を費やしているところだ。幸いなことにガスが晴れてきて目指すピークが見えてきた。ルートの方向も太陽の方向と一致していて確認しやすい。先頭はYnK。分水嶺は初参加だが藪はベテラン。まるで登山道を下っているようなペースで降りていく。何度も待ってコールをかける。15名での藪山行は初体験。5mも離れると姿が見えなくなる藪の中で隊の状況を把握するのは容易ではない。でも、今回のメンバーは初の顔合わせとは思えないほど足も揃っていて、前後の伝令もうまく伝わる。一度もルートを乱すことなく急坂を下り、少し広くなった場所で一本立てる。

1530m−鎌房山南西鞍部 9:01−9:59 距離 1060m 平均速度 1100m/h
稜線
歩きやすい稜線の広葉樹林帯

鎌房山山頂
鎌房山山頂

 ここからしばらくは、起伏の少ない稜線を歩く。歩きやすい笹原でペースが上がる。1498mピークからの下り。広い尾根筋で少し北側にルートを外す。次のピークが見えていたので、「ちょっとショートカットしよう」と先頭のTkZに声を掛けてそのまま進んでいくと、後ろから「ルートを外れてる!」「尾根は右側!」と声が上がる。仕方なく「外野がうるさいから尾根に戻ろう」と声を掛けて尾根に戻る。後ろの方を歩いていても、単に付いて行くのではなく地形を読み、ルートを読み、声を掛け合う。これが分水嶺チームの強さであり、無事故で歩き続ける秘訣なのだ。

鎌房山南西鞍部−鎌房山 9:59−10:35 距離 620m 平均速度 1040m/h 登攀速度 70m/h
 1450mのピークから急斜面を慎重に降りると鎌房山南西の鞍部に着く。背丈を越える笹の密藪。YbTが道を切り開きながら登っていく。急坂を登りきったところで一年ぶりに参加のSmZに交替。小さな岩峰も省略せずに分水嶺の尾根を忠実に辿っていく。鎌房山のピークは、ほとんどフラットでピークが分かりづらい。GPSを頼りに三角点の場所を目指す。山頂付近をうろうろとして漸く標識を見つける。
鎌房山−鎌房山南西鞍部林道 10:49−11:23 距離 700m 平均速度 1230m/h 下降速度 100m/h
 山頂で全員で握手をし集合写真を撮る。標識は1mほどの木柱。これでは、3月に来たときには雪に埋まってしまって見つからなかったのも仕方がない。YmTを先頭に下る。来た道を戻るのは面白くないと思ったのか、下りは最短コースを取る。鞍部の手前から林道の方向に進路を向ける。林道まで残り20mのところで、まだ藪でトップを歩いた経験のないNzWに先頭を変わる。笹薮をほんの一掻きと思っていたが、これが大間違い。笹が薄くなった窪みを進むと「前が崖なんですけど」と声がかかる。覗いてみると2mほど急に落ち込んでいて、下には水が流れている。「左にトラバースしよう」と声を掛ける。45度ぐらいの傾斜がある笹薮のトラバース。ほとんど腕力でぶら下がりながらのトラバース。慣れた人でも厳しいところだが、なんなくクリア。少し広いところまで進んで後続を待つ。この後も2mほどの段差を笹に掴まって下る。沢沿いに少し下りるとようやく林道に出た。
鎌鎌房山南西鞍部林道−甲子峠 11:23−11:59 距離 2060m 平均速度 3640m/h
 降り立った地点は、前日に下見をした地点よりも20mほど東だった。とりあえず、無事に藪を突破したことに一安心。林道をテンバまで戻る。昨日に比べると、ずいぶん雪が減っている。途中、水場で、昨日なくなったプラティパスの蓋を探したら、直ぐに見つかった。テンバに着き、タクシー会社に電話をして、15:30の予約を13:30に早めてもらう。
紅葉
紅葉が美しい甲子道路

甲子峠−旧国道289号 12:26−13:38 距離 5630m 平均速度 4690m/h 下降速度 340m/h
 テントを撤収して甲子トンネルの会津側出口に向かう。この道は、甲子トンネルが完成するまでは来るまで通行できたようだが、今は整備されていないので陥没が激しく一般の車の通行は難しい。標高が下がると、雪の世界から秋に季節が戻る。やさしい色の紅葉が美しい。新道との合流から500mほど入ったところの車止めでタクシーが待っていてくれた。新白河駅の近くのラーメン屋で反省会。




 分水嶺の今年のテーマは、関東シリーズの踏破と、新メンバーの獲得の二本立てだった。新メンバーの勧誘に対しては東北つまみ食いシリーズと称して、和賀岳、八幡平などメジャーな山を企画したが馴染みの顔ぶれでの山行になってしまった。みろく山の会の30周年集中山行では分水嶺を忠実に歩くコースを設定してもらい、多くの人に参加してもらったが、登山道の山行では、分水嶺の本当の楽しさは分からない。今回の山行では、何人かの新しいメンバーの心を掴んだはずだ。僕の前には道がない。僕の後ろに道は出来る。想像力を働かせて計画を立て、ルートを読み、挑戦する。子供の頃には、誰でも持っていた冒険心。それが分水嶺の魅力なのだ。残念ながら年内の関東シリーズ踏破は叶わないことになってしまったが、来年は新しい仲間と共に踏破しよう。そして、東北シリーズと続いていく。